三日月の下、君に恋した
 普段、彼が人前で黒いサングラスをかけているのには理由がある。

 異質な瞳の色に向けられる好奇の視線が耐え難いからでも何でもなく、ただサングラスを外したときの相手の表情を見るのがこの上なく楽しいという、悪趣味な理由からなのだ。

 そしてその行為は、リョウが女を口説くときの常套手段だということを、航は知っていた。


「変な意味じゃねーって。ちょっと確かめたかっただけ」

「確かめるって……何を?」


 リョウはまた楽しげにクククと笑った。

「おまえの趣味って、昔から全然変わってねーなーと思って」


 航は憮然として、「おまえもう帰れ」と言った。

 リョウは航の言葉を無視してまったく帰るそぶりもなく、荒れた庭を見わたしたり、静かに佇む古い家を眺めたりした。


「この家、どーすんだ?」

 航は家の屋根を見上げて、「売ろうと思ってる」と言った。

 すると、リョウがあっさり「じゃー、俺が買ってやる」と言う。
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