三日月の下、君に恋した
「この二冊は初期の作品で……」

 説明しようとすると、美也子が残りの一冊を手に取って言った。

「こっちのは最近のでしょ」

「読んだことあるの?」

「ないけど、出版社を見ればわかるじゃないですか」

「何で?」

 美也子が信じられないという目つきで菜生を見た。


「菜生さん……ひょっとして知らないんですか」

「何を?」


 菜生にはさっぱりわからない。

 美也子はあきれたような顔をして、「あんなに大騒ぎしたのに」と言った。


「ほら、何年か前に、葛城リョウが大手出版社と揉めて」

「ああ……そういえば、何かあったね。よく知らないけど」

「うそお、ホントに知らないんですか? あのころのワイドショーのネタって、ずーっとこれだったじゃないですか」

「騒いでるのは知ってたけど、理由は知らない」

 はあー、と美也子があきれたようなため息を漏らす。
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