三日月の下、君に恋した
「菜生さんって、そういうの興味なさそうですもんねー。あのですね、葛城リョウが三木沢賞を取ったあと、いきなり大手出版社数社に対して、絶縁宣言したんですよ」

「えっ何で?」

「なんか、いろいろ不満があったみたいですよ」


 菜生はあらためて手元の本を見た。確かに、初期の2冊は大手出版社のもので、残りの一冊は聞いたことのない鱗灯舎という出版社から出た本だった。


「でも、それってすっごい自分勝手な言い分だと思いません? それに、それまでお世話になった出版社に対して、ひどい暴言吐いてたんですよ、あの人。あたし、インタビューとか聞いてて、関係ないけどムカつきましたもん」

 それは、菜生もちらっとだけど見たことがある。確かに、聞いていて気分のいいものじゃなかった。


 でも。

 どうしてだろう。何かひっかかる。


「それで、その絶縁宣言のあと、ほんとうに小さい出版社からしか本を出さなくなったんですよ」

 大手出版社との関係はこじれたまま未だに修復されず、その騒動以来、彼は文学界で孤立した存在になっているという。
< 108 / 246 >

この作品をシェア

pagetop