三日月の下、君に恋した
「それより菜生さん、日曜なのに出かけないんですか?」

「ああ……うん」


 日曜の午後は、いつも公園に行く。だけど、さすがにもう行けない。いつも公園で会っていたあの紳士が社長だなんて知ったら、行けるはずがない。

 それに、何よりもまず専務の誤解を解くことが先だった。社長の愛人だと思われたままなんて、我慢できない。社長にも迷惑をかけることになる。


 とにかく梶専務ともう一度会って、ちゃんと説明しなくては。私は──。

 菜生はハッとした。


 梶専務の誤解を解くことが、何よりも大事?


 あの人にふしだらな女性だと思われることくらい、どうってことないんじゃないの?


「ねえ菜生さん、彼氏とどっか遊びに行かないんですか?」

 キッチンにいる美也子が何か言っているようだったけれど、菜生は聞いていなかった。


 部屋に入るとよれよれのトレーナーとジーンズを脱ぎ、アイロンをあてたブラウスとスカートに着替える。はねた髪をなおしている時間はないので、後ろでまとめる。

 自分の感情にとらわれて、大事なことを後回しにしようとしていた。


「ちょっと出かけてくる」

 キッチンに声をかけると、菜生はジャケットを羽織って玄関に向かった。
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