三日月の下、君に恋した
苦笑いを浮かべる彼の目に、かすかに暗い影がよぎったように見えた。けれど、それは一瞬のことで、すぐにまたあたたかなまなざしに変わる。
「ちょっと、長崎君」
ふいに噴水の広場のほうへ顔を向けて、名前を呼んだ。
葡萄色のコートを着て、子供たちと一緒に鳩にえさを与えていた中年女性が、こちらを向いた。にっこりして、小走りにやってくる。
「彼女は私の秘書で、あなたのことを頼んでおいた」
「……はい?」
女性は菜生の前に立つと、「長崎雅美と申します」とほがらかに挨拶した。
五十代半ばくらいに見えるけれど、小柄でかわいらしい印象の上品な女性だった。肩までの髪が耳の下でくるっとカールしている。
自然な動作で名刺を差し出され、菜生はうろたえながらも受け取った。名刺の裏に、携帯電話の番号がボールペンで記されている。
「それはわたくしの個人的な番号ですので、いつでも遠慮なくかけてきてください」と、彼女は何のためらいもなく言った。羽鳥社長がうなずく。
「会社で何かあったら、彼女に連絡してください。私が直接何かすると、いろいろ面倒なことになるのでね。代わりに彼女に動いてもらいます」
「ちょっと、長崎君」
ふいに噴水の広場のほうへ顔を向けて、名前を呼んだ。
葡萄色のコートを着て、子供たちと一緒に鳩にえさを与えていた中年女性が、こちらを向いた。にっこりして、小走りにやってくる。
「彼女は私の秘書で、あなたのことを頼んでおいた」
「……はい?」
女性は菜生の前に立つと、「長崎雅美と申します」とほがらかに挨拶した。
五十代半ばくらいに見えるけれど、小柄でかわいらしい印象の上品な女性だった。肩までの髪が耳の下でくるっとカールしている。
自然な動作で名刺を差し出され、菜生はうろたえながらも受け取った。名刺の裏に、携帯電話の番号がボールペンで記されている。
「それはわたくしの個人的な番号ですので、いつでも遠慮なくかけてきてください」と、彼女は何のためらいもなく言った。羽鳥社長がうなずく。
「会社で何かあったら、彼女に連絡してください。私が直接何かすると、いろいろ面倒なことになるのでね。代わりに彼女に動いてもらいます」