三日月の下、君に恋した
酔っていたわけではなかった。
店を出ると、駅前の人通りはめっきり減って、静まりかえっていた。なんとか終電に間に合う時間だった。
菜生は黙りこみ、彼も何も言わなかった。見上げた先の空に、象牙色の三日月が浮いていた。
帰りたくなかったし、このまま別れたくなかった。
ホテルに入ってからのことは、夢の中みたいにぼんやりして現実とは思えない。
菜生の体にふれる彼の手はやけどしそうなくらい熱かったけれど、泣きたくなるほどやさしかった。
一晩中、彼の唇は菜生を誘い、くりかえし求めた。
菜生は彼の腕に抱かれて、全身を焼きつくすような激しい快感に何度もふるえた。
信じられないほど深く、果てしない夜だった。