三日月の下、君に恋した
 やっぱり、連絡しなかったのはまずかったのかな。でも。

「ええと、その。専務とのことですけど、自分で、解決できますから。早瀬さんに迷惑をかけるようなことは、しません」


 無言。


 自分の心臓の音だけが聞こえる。

 しばらくして、頭の上から長いため息が降ってきた。


「かわいくない」


 彼は投げやりにつぶやくと、身を引いて菜生の後ろの壁にもたれかかった。

 菜生はちょっと腹が立った。会議が始まる前、彼が広報課の女性社員と楽しそうにしゃべっていたのを思い出して、さらにむかむかした。


「かわいくなくて結構です。別に、そんなの望んでないし」

 菜生は椅子から立ち上がると、資料を抱えて航に向き直った。

「かわいい人なら、ほかにいっぱいいますから。どうぞご自由に」


「……あのね」


 菜生が立ち去ろうとするのを、航がやわらかく遮った。


「本気でかわいくないと思ってたら、はじめて会った子にあんなことしない」
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