三日月の下、君に恋した
 菜生はボールペンを受け取って、彼の左手にそっと自分の手を添えた。ボールペンを持つ手が震えて、うまく書けない。

 何とか彼の手の隅っこに携帯の番号を書き終えて、菜生はほっと息を吐いた。

 だけど、ボールペンを返したあとも、手を放すことができなかった。あたたかくて大きな手にずっとふれていたいという誘惑に、全身がとらわれている。


 菜生が彼の手の甲に添えていた左手を、彼が握りかえしてきた。彼の親指が、ゆっくり菜生の指の腹を撫でる。それだけで、息苦しくなるくらいぞくぞくした。


「おーい。いつまで待たせんだ?」


 菜生は飛び跳ねるほど驚いて、さっと航から離れると両手を後ろで組んだ。

 見ると、ドアのところに葛城リョウが立っていて、こちらを見ていた。航が小さな声で何かつぶやいたが、よく聞こえなかった。


「失礼します」

 菜生があわてて会議室を出ようとすると、ドアのところにいる葛城リョウがにやにやしながら菜生をじっと見た。顔が熱くなった。もしかしてずっとここにいた? 嘘でしょ?

 前言撤回。やっぱり最低だ、この人。
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