三日月の下、君に恋した
 菜生は会議室を出ると早足で廊下を歩き、一度も振り返らず、エレベーターに乗った。まだ心臓が激しく鳴っていた。目を閉じて深呼吸する。

 話したいことがあると、彼は言っていた。

 聞きたい気もするし、聞きたくない気もする。


 ちがう。やっぱり聞きたい。

 私も、彼に話したいことがある。たくさん。

 もっと言葉を交わしたい。

 もっと近づきたいし、もっと知りたいし、もっと会いたい。


 エレベーターが通販課のフロアがある階で停まった。

 席にもどると、美也子が「テレビで見るのとおんなじでしたねー」と言った。

「ホントにあの人に決めちゃって大丈夫なのかなー? ドタキャンされたらどうするんだろ。ありえますよねー」


 菜生はうなずきながら、葛城リョウの言動を思い返していた。

 ほんとうに、何のために来たんだろう──?


 まるで、梶専務にあのひとことを言うために来たみたいだと、菜生は思った。
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