三日月の下、君に恋した
「早瀬さんって、普段はそういうやり方しない人なのに、今回はちょっと変だって言ってました。ひょっとして、葛城リョウと裏取引があるとか」

「……うん」

 うっかりうなずいて、美也子に変な顔をされた。あわてて話題を変える。


「変な夢、見ちゃった」

「そんなとこで寝てるからですよ」

「ネズミになった夢」

「うわ、やだー。なんでネズミ?」


 美也子はそう言いながら、バスルームに向かった。

 菜生はソファから立ち上がると自分の部屋に行って、本棚にある『三日月の森へ』を手に取った。ページをめくると、ちょうど真ん中あたりにその森の場面を描いた挿絵があった。

 主人公の少年は、夜の森の中で行き先を見失い、途方に暮れる。でも、そのあと夜の森の支配者に助けられて、彼は無事に森を抜け出すことができるのだった。

 彼を助けたものの正体は、挿絵にも文章にもはっきり描かれていない。子供だったときはこの部分がよくわからなくて、もやもやしていたけれど……。
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