三日月の下、君に恋した
「……今回はアカネズミか。重傷だなあ」


 夢は、昔からよく見る。でも最近はとくに増えた気がする。多いのは『三日月の森へ』の世界に迷いこんだ夢だった。

 夢の中で、菜生はいつも主人公の少年に出会う。


 困っている彼を助けたいと思っているのに、夢の中の菜生は、虫や小動物や植物などのすがたになっていて、毎回、助けられない。話しかけることさえも。


「それ、何かの暗示とかじゃないんですかー?」

 バスルームの中から美也子のこもった声が言う。

「そうなのかな」

「そうですよ。そこまで徹底的だとリアルすぎ」


 菜生は本の最後のページをめくり、そこにある住所を見た。

 何度も浮かんでは消えて、最後に目をそらし続けてきたその考えが、菜生の中でゆっくり固まっていく。


 携帯が鳴った。

 表示された名前を見て、本を落としそうになった。

「……はい」
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