三日月の下、君に恋した
「えっ」

 太一がびっくりした声を出す。

「沖原さんて、彼氏いたの?」

「そうっ。いたの。びっくりだよ。あたしも最近知ったんだけど。菜生さんてば、全然話してくれないんだもん」

「ふーん。そうなんだ。年上?」

「学生時代の友達って言ってたから、同い年じゃないかなあ」


 美也子がちらりとこちらを見た。

「早瀬さん。六十周年の企画、順調に進んでますか?」


 太一がぎょっとしてのけぞった。「やめろよ、仕事の話は」

「でも、うちにも関係ある話だもん。通販カタログの巻頭ページで、葛城リョウのロングインタビュー載せるって決まったでしょ。何か心配で。あの人、大丈夫なんですか」

 航は少し笑った。そりゃそうだよな。


「大丈夫だよ。心配ない」

 そう言うと、席を立った。「お先に」


 仕事に集中しよう。迷っている時間はない。

 何としてもこの企画をやり遂げよう。そして目的を果たすことができたら──帰ろう。もとの場所へ。日常へ。
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