三日月の下、君に恋した
20.夜の谺(こだま)
西の空が蜜柑色に染まり、夕日が頬を差すのを感じた。段々畑が金の粉をふりまいたみたいに輝いていた。
菜生は玄関についているドアチャイムをならした。しばらく待っていると、玄関からではなく、家の横手から、白い割烹着を着た年配の女性があらわれた。
「どちらさま?」
ゆっくりとした土地の訛りのある言葉で、女性が菜生に笑いかけた。
「沖原と申します」
菜生は頭を下げた。
「失礼ですが、こちらは北原まなみさんのお宅でしょうか?」
「はあ」
「私は、ええと」
カバンの中から手紙を取り出し、差出人の名前を彼女に見せた。
「以前、まなみさんと文通をしていた者です。突然すみません。その、まなみさんからの連絡が途絶えてしまって……」
「まなみは亡くなりましたよ」
彼女は笑顔のまま、おだやかに告げた。
「もうずいぶん前に。事故だったと聞いておりますけど」
親戚といってもほとんどつきあいはなく、くわしいことはわからないと彼女は言った。