三日月の下、君に恋した
「あらやだ。降ってきた」
やんでいた雨が、また降り始めた。
「向こうの、屋根があるところへ行きましょう」
菜生がうながすと、秘書の長崎雅美はほっとしたようにうなずいた。噴水の向こう側に見える、屋根付きのベンチまで二人で走った。
昨日から降り始めた雨は、菜生が帰ってきた夕方頃に本降りとなり、それから一晩中降り続いた。
今朝になっていったんやんだものの、空はあいかわらず薄暗く、いつまた降り出してもおかしくない様相だった。
雨が降っている時は公園には行かないことにしていたけれど、羽鳥社長と約束を交わしてからは、天気に関係なく、菜生は日曜には公園に出かけた。彼が来ていなくてもかまわなかった。
「沖原さんに連絡をするように、社長に言われたんですけど」
長崎雅美は濡れた服をハンカチで軽くふきながら、菜生に言った。
「今日は社長は来られないからって、電話するつもりだったんです、ほんとうは。でも、二人で会うのもいいかなと……ごめんなさい」
菜生はあわてて首を振った。
「私は全然かまわないです。でも長崎さん、お忙しいんじゃ……」