三日月の下、君に恋した
22.彼の秘密
エレベーターが途中で停まり、乗りこんできた人物を見て、菜生は緊張した。
オレンジの髪にサングラスに革ジャンという、周囲から浮いたひときわ目立つ格好で、葛城リョウは菜生の横に立った。
そのあとから入ってきた早瀬航も、菜生に気づいたのに、何も言わずにエレベーターの扉を閉める。
不良作家とは対照的な、落ち着いた消炭色のスーツ。セピアのネクタイも似合っていて、あいかわらず完璧だった。
長身の男たちは菜生の存在を無視しているみたいに、そろって階数表示を見ている。
打ち合わせが終わって帰るところだろうか。例の企画のことを尋ねてみたい気がしたが、二人の態度が質問するなと言っているようにも見えた。
降下するエレベーターの中で腕時計を見ると、昼休みが終わるまでまだ少し時間がある。
食堂で美也子と一緒にランチを食べたあと、菜生はひとりで郵便局へ行こうとしていた。週末お世話になった北原夫妻に宛てた、お礼の手紙を出すためだ。
先週、電話で北原まなみに会いにいくと言ってから、航とは話していなかった。あれきり電話もかかってこないし、社内でも会っていない。