三日月の下、君に恋した
 北原まなみが亡くなっていたことや、三日月の森のことを話したくて、土曜に帰ってきてからずっと、菜生は航からの電話を待っていた。土曜に帰ることは話してあったし、彼はまた連絡すると言ってくれた。でも、連絡はなかった。


 彼は、北原まなみが亡くなっていることを、前々から知っていたのかもしれない。今から思えば、菜生が北原まなみについて話しているとき、彼の反応はひどく淡泊だった。

 気のせいかもしれない、と菜生は思い直した。電話がかかってくるのを待っているうちに、深く考えすぎたのかもしれない。

 航は菜生に背を向けて、こちらを見ようともしない。


「アンタ、時間ある?」


 エレベーターが一階に停まり、菜生が最後に降りようとしたとき、葛城リョウが急に振り向いて声をかけた。

「え……? 私ですか?」

「アンタのほかに誰がいんの」


 ふてぶてしい態度で、葛城リョウは菜生の前に立ちはだかった。言葉も態度も乱暴だし不躾だとは思ったけれど、怖くはなかった。

「でも、もうすぐ昼休みが終わりますので」

「そんなのどーでもいいだろ。つきあえよ」
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