三日月の下、君に恋した
何が何だかわからない。
きっと数か月前なら、他人のことにここまで執着するようなことはなかったはずだ。
秘密くらい誰でも持っている。
人に言えないことを、たぶん人よりたくさん持っているぶん、他人の秘密にも深入りしようとは思わなかった。
彼を好きだという気持ちに気づいたあとも、そういう意味では、例外だと思っていたわけじゃない。特別な想いがあれば、好き勝手に踏みこんでもいいとは思っていない。
あの夢のせいかもしれない。
三日月の森で聞いた、あの声のせいかもしれない。
彼の秘密に、黙って目を閉じることができない。
そのとき、菜生はタクシーの運転手が話していたことを思い出した。
「葛城先生が今書いている……ああ、いえ、そうじゃなくて。その……葛城先生は、北原まなみっていう作家のことを、ご存知ですか」
彼は答える代わりに、ポケットから手帳を出して何かを書きこみ、そのページを破って菜生に渡した。乱暴な字で住所がメモされていた。
「いつでもいいからここへ来な。そしたら、あいつの秘密を教えてやる」
渡されたメモから顔を上げると、彼はもうサングラスをかけていた。
「じゃーな」
そっけなく手を振って、葛城リョウは人混みの中に消えていった。
きっと数か月前なら、他人のことにここまで執着するようなことはなかったはずだ。
秘密くらい誰でも持っている。
人に言えないことを、たぶん人よりたくさん持っているぶん、他人の秘密にも深入りしようとは思わなかった。
彼を好きだという気持ちに気づいたあとも、そういう意味では、例外だと思っていたわけじゃない。特別な想いがあれば、好き勝手に踏みこんでもいいとは思っていない。
あの夢のせいかもしれない。
三日月の森で聞いた、あの声のせいかもしれない。
彼の秘密に、黙って目を閉じることができない。
そのとき、菜生はタクシーの運転手が話していたことを思い出した。
「葛城先生が今書いている……ああ、いえ、そうじゃなくて。その……葛城先生は、北原まなみっていう作家のことを、ご存知ですか」
彼は答える代わりに、ポケットから手帳を出して何かを書きこみ、そのページを破って菜生に渡した。乱暴な字で住所がメモされていた。
「いつでもいいからここへ来な。そしたら、あいつの秘密を教えてやる」
渡されたメモから顔を上げると、彼はもうサングラスをかけていた。
「じゃーな」
そっけなく手を振って、葛城リョウは人混みの中に消えていった。