三日月の下、君に恋した
 よく知りもしない男性と、雰囲気に流されて体の関係をもったことは、これまで一度もない。

 付き合った男性の数はきわめて少ないけれど、ちゃんと二人の時間を重ねて、ある程度お互いのことを知ってからだった。酔った勢いで、とか、どうにもがまんできなくて、とか、そういう話はよく聞くけれど、自分には縁のないことだと思っていた。


 どうしてああなっちゃったんだろう。


 いくら考えてもわからない。昨夜は、そのことに疑問なんて感じなかった。それはとても自然なことのように思えた。あたりまえのように。そうなる運命だとでもいうみたいに。


 バカじゃないの。


 久しぶりにちょっとかっこいい──かなりかっこいい男性に誘われたからって、すっかりのぼせ上がって。二十七にもなって。


 何よりも認めたくないのは、菜生自身が夢中で彼を欲して、正気を失うほど感じていたことだった。
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