三日月の下、君に恋した
通販課のフロアでエレベーターを降りると、廊下の奥の非常階段のところで、美也子が友野太一と話しているのが見えた。
「何してるの。もう昼休み終わるよ」
菜生が声をかけると、二人ともびっくりして会話を中断した。
「どうしたの?」
二人の顔にいつものふざけたようすはなく、菜生だとわかると同時にすがるような目を向けてきた。
「六十周年の企画、もうダメかもしれません」
太一が声をひそめて言った。いつになく切羽詰まった口調だった。
「何かあったの?」
「葛城リョウが、協力しないって言い出したんです。今朝の会議で、突然」
「それ、どういうこと?」
「顔を出すのはいいけど、文章は一切出さないって言ってるんだって」
美也子がうんざりしたように言い、太一がうなずいた。
「コピーを書いてもらうことは、最初の段階で了承をもらってたんです。あの企画は、彼のロングコピーがメインなんだから。あの人だって、企画書を読んだときにわかってたはずです。それなのに、今さらできないなんて」