三日月の下、君に恋した
 美也子が顔を近づけてきたので、酒臭い息がかかった。

「美也ちゃん……酔ってるね」

「だいたい電話に出ないって、何様ですか、その男」

 今夜の合コンは、どうやらあまり楽しいものではなかったらしい。


「どういうつもりかしりませんけど、気持ちは態度じゃなくて言葉で伝えるべきですよ。そりゃね、どこかの毒舌作家みたいに暴言吐きまくるのもどうかと思いますけどね、自分は何も言わないで、空気読めみたいな態度とるのは許せませんよ。サイテーです。ヒキョーです。男らしくないですっ」

「うん、わかった。ありがと。またかけてみるから」

「ほんとーですか?」

「うん」

「そーですか。それがいーです。そーしてください、ぜひ」

 ふらっと立ち上がると、美也子は自分の部屋に入っていった。


 しつこく電話をかけるのは、やはり勇気が要る。三日続けてかけるのでさえ、菜生にとってはかなり大きな意思表示なのだ。

 三日連続で無視されている事実は、どう都合よく考えても避けられているとしか思えなかった。


 何も伝えていないのは、菜生も同じだ。


 言葉にしたら消えてしまいそうな、ちがう気持ちとすり替わってしまいそうな、心の奥深いところから出せそうにないそういう気持ちは、どうやって伝えればいいのだろう。
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