三日月の下、君に恋した
 時間を見ると、まもなく昼休みに入ろうとしていた。午後から何件か訪問する約束があったので、そろそろ出かけないといけない。


「おい。……おいっ」


 会議室を出て席にもどろうとすると、小声で呼ばれた。廊下の隅にある自動販売機の陰に、山路均が身を隠すようにして立って手招きしている。


 航が歩いていくと、

「よけいなことすんな。鷺のくせに何考えてんだ」と言われる。

「は?」

「波風立てんなって言ってんだよ。今さらイタチ野郎にかみついてどうすんだ」

「はあ……」

「あんな企画、ほっとけよ。イタチの相手は部長とか主任とか誰かほかのやつに任せて、適当にやってりゃいいんだよ。あんた、馬鹿じゃないんだからわかんだろ、それくらい」


 山路の必死な形相に、航は思わず顔をゆるめそうになった。

「心配してくれてるんですか」

「とばっちりはゴメンだって言ってんだよっ」


 山路の顔と声に、いらついた感情がまじり始めた。

「俺はずっと今のままでいたいんだよ。ここは居心地がよくて気に入ってたのに、あんたが来てからすっかり変わっちまった。もとのままでよかったのに。あんたがさっさといなくなってくれるほうが、俺としてはありがたいんだよ」

「そうですか」

「だからな、あきらめて、おとなしくしててくれ」
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