三日月の下、君に恋した
「それはできません」

 返答に一瞬も迷わなかったので、山路は口を開いたまま言葉を失っている。

「すみません」

 航は頭を下げた。とたんにめまいがして、よろけた。


「おいおい。大丈夫か」

「平気です」


 山路はあきれたような目を向けた。

「あんたも強情だな」


「でも、このままじゃ営業企画部は潰されますよ。どっちみちあなたの居場所はなくなります」

「何だって?」

「イタチが狙ってるのは、巣立ちする鷺じゃなくて巣のほうだってことです」


「……」

「俺に協力してくれませんか。専務の思い通りにはさせませんから」

「じょ……冗談じゃない。嫌だ。断る」

「あとでメールを送ります。打ち合わせの時間を調整しておいてください」

「やめろ、俺は協力しない。メールなんか送ったって見ないからな。絶対に見ないからな」

 山路はしどろもどろになりながらも、航から目を離さなかった。


「あんた……何者なんだ?」

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