三日月の下、君に恋した
午前中の業務を終えると、菜生は急いで営業企画部のフロアに向かった。
電話に出てもらえないなら、会社で話すしか方法はない。
だが、節電で消灯した薄暗いフロアを見わたしても、航の姿はどこにもない。
「どうしたんですか、沖原さん」
友野太一に声をかけられた。ほかの社員同様に、彼も食堂に向かう途中だった。
「早瀬さんは?」
菜生が聞くと、太一は意外そうな顔をした。
「早瀬さんですか? えーと……まだ会議室にいるのかな」
二人で会議室を覗いてみたが、無人だった。
「早瀬なら出かけたみたいだぞ」
会議室の入り口に山路均が立っていた。平社員でも古株なので、菜生も名前と顔は知っている。
「また出かけたんですか? どこへ?」
「さあな。今日は直帰するって言ってた。具合が悪そうだったから週末はゆっくり休めって言っといたんだが、ありゃー家でも仕事する気だな」
「まだあの企画のこと、あきらめてないんすかね?」
「みたいだな。やめとけって言ったけど無駄だった」
山路が顔をしかめて、うっとうしそうに言った。