三日月の下、君に恋した
 太一と山路が例の企画について話し出したので、菜生は思いきって質問した。

「それって六十周年の企画のことですよね? あの、葛城先生が出した条件って、どうなったんですか?」


 山路がじろっと菜生を睨んだ。

「あんた誰」


 通販課の沖原です、と菜生は手早く答えた。ふーんと言いながら山路が疑惑の目を向けてきたので、菜生は「うちもこの企画に関わってるんです」と言った。

「あっそ。じゃあ覚悟しといたほうがいいぞ。まだひと悶着ありそうだから。例の条件は却下されて葛城リョウの採用は白紙になったんだが、早瀬のやつが必死に食い下がってる」


 山路は白髪まじりの頭をわしわしとかきむしった。

「社長は断ったってことですか」

「そうらしいな」

「当然ですよ。あんなわけわかんない条件」


「でも早瀬さんは、あきらめてないんですね?」

 菜生が身を乗り出すと、山路と太一は面食らったように一瞬口を閉じた。

「まあ……そうみたいだけど」

 菜生はくるりと向きをかえて立ち去ろうとしたが、思いとどまって足を止めた。
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