三日月の下、君に恋した
27.音のない部屋
会って話さなきゃ。
誤解だって言わなきゃ。
でも誤解を解くってことはつまり、彼氏じゃなくて好きな人なんですって説明することになって、そしたら、好きな人が誰かって話になるんじゃない?
それって告白するってことになるんじゃない?
菜生は廊下を早足で歩きながら、頭の中で氾濫する言葉におぼれそうになった。
だめだ。今はそんなこと悩んでる場合じゃない。
ひとけのない非常階段の踊り場で、携帯電話に登録してある長崎雅美の番号を呼び出した。ワンコールも鳴らないうちにつながった。
「どうしたの、沖原さん。何かあった?」
雅美を誤解させないように、菜生はできるだけ冷静な声で、緊急ではないことを告げた。
「あの、相談があって。ルール違反だってわかってますけど、でも、どうしても社長に頼みたいことがあるんです」
余計なことかもしれないと思う。
でも、私の今が、彼の今とつながっていることを、信じてみたい。