三日月の下、君に恋した
「仕事のこと?」

「はい」

 電話のむこうで、雅美が考えこむ気配が感じられた。


「それはすごく難しい相談だと思うけど。社長は公私混同しない人だから」

 菜生に落胆する隙を与えず、雅美は続けて言った。

「とりあえず聞かせてくれる?」





 土曜日とあって、ビルの中は昼間でもひっそりしていた。


 休日出勤している社員を数人見かけたが、ほとんどのフロアは消灯して無人だった。

 営業企画部のフロアにも誰もいない。


 デスクに散乱する商品サンプルや資料、カタログのゲラ刷り、山積みされた掲載誌の数々。

 いつもと同じ、見慣れた職場の風景なのに、人がいないだけで別の会社のように違って見える。


 時計を確認すると、午後三時十分前だった。


 三時に専務室に来てくれと梶専務から言われていた。相談したいと航の携帯に連絡があったのは、昨日の夕方だった。
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