三日月の下、君に恋した
28.一緒にいたい
彼女の声がする。
「あの……早瀬さんですよね?」
黙っていると、不安そうな声が聞こえてきた。
「今、話しても大丈夫ですか?」
何を話すって?
電話にはことごとく出ないで、友野太一の伝言も無視して、さんざん避けて逃げまわってる男に、何を話すことがあるんだ?
それに、どうせ何も話せない。俺は、彼女に、ほんとうのことは何も話せない。
「切らないでください」
泣きそうな声で言われて、ためらう。
「……どうしたの」
ふさがっている喉の奥から、無理やりかすれた声を出す。
「社長が──羽鳥社長が、早瀬さんと会ってもいいって言ってます」
まだはっきりしない頭の中で、彼女の言葉を何度もくりかえした。
どうして彼女がそんなことを言い出すのか、理解できない。