三日月の下、君に恋した
29.鼓動は重なる
まぶたの裏に心地いい光を感じて、菜生は目を開けた。
目の前に航の顔があった。
「おはよ」
彼の髪の上で、朝の光がやわらかく揺れている。夢かと思って、何度もまばたきをくりかえした。ベッドの中、二人とも裸で、ふれあうほど近くにいる。
昨夜の記憶が、ふいに生々しく浮かんできた。
「お……はよう」
うろたえて、みじめな声を出してしまう。
「……いつから、起きてたの?」
「三十分くらい前」
航の手が伸びてきて、菜生の髪にふれた。菜生の髪を指でやさしく梳きながら、かすかに笑う。
「また逃げられたら困ると思って、動けなかった」
心臓が跳ね上がった。彼の笑った顔を見るのは、ひさしぶりだ。しかもこんな至近距離で。
航が顔を寄せてきてキスをしようとしたので、菜生はあわてて彼の額に手を置いた。
「熱、下がったみたい。よかった」
気を削がれたように不満げな顔をして、航は身を引いた。