三日月の下、君に恋した
4.忘れるなんて
ない。
菜生は全身が冷たく硬直するのがわかった。
バッグの中身を乱暴にベッドの上にぶちまける。
財布、化粧ポーチ、ケータイ、タオルハンカチ、キシリトールガム、定期入れ、スケジュール帳、読みかけの文庫本。
やっぱりない。
菜生は部屋を出てバスルームに直行した。自分専用のランドリーボックスの中を引っかき回してみたが、見あたらない。急いで部屋にもどり、金曜の夜に来ていたコートのポケットを探る。からっぽ。
「どうしたんですかー」
開けっ放しになっている菜生の部屋の入り口に立って、すっかり支度を調えてマフラーを首に巻き、フェイクファーのバッグを手にした美也子が不思議そうに眺めている。
「私のハンカチ、知らない?」
「えーどんなの?」
「小鳥の模様の」
「あーあれ」
菜生は勢いよくふりかえった。