三日月の下、君に恋した
 少し歩いてから振り返ると、ふたりはベンチに並んで腰掛けていた。

「気になるの?」


 雅美が悪戯っぽい笑みを浮かべてこちらを見ている。

「いえ……まあ……はい」

 菜生はぐずぐずした返事をして、振り向いたりしなければよかったと思った。有能な秘書に全部見透かされているような気がする。


「ひょっとして、彼氏?」

 思ったとおりだ。


 だけど、菜生はその質問に答えられないことに気づいた。


 数時間前までふたりは同じベッドの中にいて、何度も確かめ合ったのに──何を?

 菜生は気持ちを伝えなかったし、彼も何も言わなかった。


「ちがいます」

 そう答えるのに少し時間がかかって、雅美に不思議そうな顔をされた。

 今度こそ確かめ合ったと思っていた。あれがその場かぎりのものだったなんて思えない。でも──。
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