三日月の下、君に恋した
「暖かくなったわねえ」

 雅美が陽射しを仰ぎ見て目を細めた。

 菜生は噴水の白い水飛沫を浴びて喚声をあげる子供たちをよけながら、激しい後悔にとらわれていた。





「実のところ、この話は初耳なんだが」

 羽鳥克彦がそう切り出したとき、航はやっぱりと思った。


 梶専務が社長に話を通していないだろうということは、薄々と察していた。


「ほんとうに、彼はそんな条件を出してきたのかね」

 まぶしそうに目を細めながら、社長はのんびりと笑った。


 視線の先に、長崎雅美と菜生がいた。噴水のそばで、数人の子供たちと何か言葉を交わしているようだった。


 何だか、ずいぶん思っていた印象とちがう、と航は思った。

 彼は濃紺のジャケットにベージュのパンツというラフな服装で、ダークグレーのキャスケット帽をかぶっていた。思いのほか、よく似合っていた。

 会社案内のパンフレットに掲載されている写真とは、まるっきり別人に見える。
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