三日月の下、君に恋した
31.決別
羽鳥克彦の物静かな目が航をとらえた。
咎めるのでもなく、荒立つわけでもなく、自然に航の言葉を受け入れる目には、あきらめの色があるようにも見えた。
「社長に絵を描いてもらえなければ、この話を降りると葛城先生は言っています。勘違いだなどという理由で、彼が納得するとは思えません」
自分の中に、無自覚に育っていた羽鳥に対する根強い不満を感じて、航はいきなり現れたその感情に動揺した。
航の心の隙を縫うように、感情の波は外へとあふれ出し、押しとどめることができなかった。
「あの絵は、社長が描いたものでしょう?」
自分はいったい何を望んでいたのだろう、と航は思った。
何も望んでいないはずだったけれど、ほんとうはちがったのかもしれない。
どこかで、彼に、何かを望んでいたのかもしれない。
正確にいうなら、彼と、自分自身の彼に対する記憶に。
だけど、そんなものは最初からありはしなかった。