三日月の下、君に恋した
 山路は無愛想な顔つきで太一を見下ろした。どことなく口調が厳しい。

「はあ、まあ……」

「じゃあ、ちょっと来てくれ」

「どうしたんですか」

「いいから来い」


 太一は顔をしかめたが、山路がテーブルの横に仁王立ちしたまま動かないので、しかたなく立ち上がった。

「沖原さん」

 テーブルを離れるとき、太一が菜生にすがるような目を向けた。


「早瀬さんから連絡があったら、教えてください」


 すると、山路の鋭い視線が飛んできた。

「連絡があったのか」

 菜生は首を振った。山路はそうだろうと言い聞かせるように、ゆっくりうなずいた。

「早瀬はもどってこない。それだけは確かだ」





 その日の夜はとても静かだった。

 夕飯のときも美也子はいつもより口数が少なかった。気を遣ってくれていることはわかっていた。でも、菜生は誰とも話したくなかった。
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