三日月の下、君に恋した
「……そう」
美也子はまだ言い足りないらしく、もじもじしている。
「菜生さんの好きな人って、早瀬さんだったんですか」
「うん」
すぐに答えて、菜生は自分でもすんなり認めたことに驚いた。
美也子はやっと満足したような温かい笑みを浮かべて、二、三度深くうなずいた。そしてそのまま何も言わずに、自分の部屋に引き返した。
美也子の部屋のドアが閉まる音を聞いて、菜生はドアを閉め、ふたたびベッドに腰をおろした。本の後ろのページをめくるとき、自然と胸の痛みを感じた。そこには航の名前はなかった。
しばらく奥付を見ているうちに、妙なことに気づいた。
印刷された鱗灯舎の住所に、かすかに見覚えがあった。
けれど、どこで見たのか思い出せない。ずいぶん前だったような気もするし、つい最近だったような気もする。
すぐそばに誰かのイメージがくっついている。乱暴で横柄で、何を言いだすかわからない人。でも、自分のその人に対する気持ちは穏やかだった。
そんな人はひとりしかいなかった。
菜生はベッドから立ち上がって、机の上の手帳を手に取った。挟んであったメモが足もとに落ちる。
メモを拾って開くと、たったいま見た住所と同じ住所が、乱雑な字で走り書きされていた。
美也子はまだ言い足りないらしく、もじもじしている。
「菜生さんの好きな人って、早瀬さんだったんですか」
「うん」
すぐに答えて、菜生は自分でもすんなり認めたことに驚いた。
美也子はやっと満足したような温かい笑みを浮かべて、二、三度深くうなずいた。そしてそのまま何も言わずに、自分の部屋に引き返した。
美也子の部屋のドアが閉まる音を聞いて、菜生はドアを閉め、ふたたびベッドに腰をおろした。本の後ろのページをめくるとき、自然と胸の痛みを感じた。そこには航の名前はなかった。
しばらく奥付を見ているうちに、妙なことに気づいた。
印刷された鱗灯舎の住所に、かすかに見覚えがあった。
けれど、どこで見たのか思い出せない。ずいぶん前だったような気もするし、つい最近だったような気もする。
すぐそばに誰かのイメージがくっついている。乱暴で横柄で、何を言いだすかわからない人。でも、自分のその人に対する気持ちは穏やかだった。
そんな人はひとりしかいなかった。
菜生はベッドから立ち上がって、机の上の手帳を手に取った。挟んであったメモが足もとに落ちる。
メモを拾って開くと、たったいま見た住所と同じ住所が、乱雑な字で走り書きされていた。