三日月の下、君に恋した
「あのハンカチ、そんなにお気に入りなんですか?」
なんとか始業時刻ぎりぎりに席に着いた。隣の席の美也子がすずしい顔でそう聞くのに、菜生は呼吸を整えながらうなずいた。
「でも、使ってるとこ見たことないですよ」
「まあ……なんていうか、お守りみたいなもんだから」
「へえー」
ほんとうになくしてしまったんだとわかって、時間がたつにつれ菜生の気持ちはどんどん暗く重たくなっていった。しかも、月曜の今日まで気づかなかったなんて。
あのハンカチをもらったのは十二歳のときで、それから大切な日に──発表会とか卒業式とかに必ず持つようになって、いつのまにかお守りみたいになってた。
すっかり色褪せてしまったので、最近では実際に使うことはなかったけれど、今も菜生のお守りであることに変わりはない。いつもバッグに入れて持ち歩いていたのに──。
また深いため息をついて、菜生はノートパソコンの電源を入れた。
なくしたのは金曜の夜だという確信が、ますます強くなってくる。