三日月の下、君に恋した
35.ごめん
そういえば携帯の電源を切ったままだった。と気づいて、コンビニを出たところで足を止めた。
着信履歴に、会社の番号と松田久雄の携帯の番号が残っていた。それになぜかリョウから2回。もどるまで待てないのか。
松田の携帯は留守電になっていて、つながらなかった。会社にかけると、外出したという。
行き先は伝えてあるし、会社には松田のほかにも頼りになる人物がいる。何かあったとしても、よほど深刻な問題でないかぎり、彼らならうまく対処するはずだった。
電話に出た社員に尋ねてみたが、特に問題が起こっている様子はないらしい。
またあとでかけると伝えて、航は電話を切った。
こういうとき、自分は恵まれているとつくづく思う。
信用のおける、心から安心して任せられる社員たち。自分を──この会社を支えているのは、間違いなく彼らだった。
前任の黒岩は、人事に関しては神経質なほど気を遣っていた。
早瀬が急死したあと、黒岩はこの小さくて心もとない会社の未来も借金も、全部ひとりで背負いこむことになった。事実、すれすれのところまで傾いたときもあった。
それでも、どんなときも、黒岩は人を育てることだけは諦めなかった。