三日月の下、君に恋した
36.ずっと
声が出ない。
言葉のかわりに涙があふれて、どうしても止まらなかった。泣いている菜生を前にして、航が戸惑っているのがわかる。
だから言わなきゃいけないのに、喉の奥に石が詰まったみたいに苦しい。口を開いても何を言えばいいのかわからなくて、声にならない。
航もまた、困ったように言葉をなくしている。
彼から言葉を奪っていたのは、自分だったのかもしれないと菜生は思った。
あの本のことを菜生が一方的に話すのを、航は何も言わずに聞いてくれたけれど、そのせいで、彼の言葉を奪っていたのかもしれない。
あの本との出会いがどんなに大切だったかとか、北原まなみの存在が今でも支えになっているとか、菜生がそんな話をするたび、彼はどんな思いで聞いていたんだろう。
歯を食いしばって涙を止めようとするのに、全然うまくいかない。胸が痛くて、ますますあふれてきてしまう。
彼の手が、菜生に触れようとして途中でためらい、まるで見えない壁を意識するように菜生から離れた。
「ごめん」
うつむいた彼の口から言葉が繰り返される。
「もう二度と……きみの前には現れないから」