三日月の下、君に恋した
 美也子と太一はすぐに仲良くおしゃべりを始めた。二人は同期らしく、ときどきほかの同期のメンバーと食事をしたり飲みにいったりしてるらしい。


 菜生は食事をしながら二人の話に集中しようとしたけれど、ほとんど上の空だった。


 隣の席から伝わってくる気配だけで、頭がおかしくなりそうだった。くっついているわけではないのに、彼の体温がはっきり感じとれる。

 菜生の視界の端に、骨張った大きな手が入りこんでくる。その手にされたことを思い出すと、かっと頬が熱くなった。

 菜生は、浮かんでくる記憶と感覚を必死で振り払った。

 そして、彼の存在を感じとらないように、全身の感覚をシャットダウンした。


「私たち、一緒に住んでるんだよ」

 美也子が太一に説明しているのが聞こえる。

「美也子ってズボラだから、大変でしょ?」

 太一が少年みたいなあどけない顔で、菜生に笑いかける。美也子と同期なら二十五にはなっているはずだけれど、どうみても二十歳前後にしか見えない。

 なんにしても、話しかけてもらえると気が紛れて助かる。
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