三日月の下、君に恋した
「まあ、ときどき」

 菜生が答えると、美也子が「ええー」と抗議の声をあげた。

「ちゃんと料理してるじゃないですか」

「料理だけね」

 菜生は笑った。美也子は意外なことに料理が得意だった。

 そのための買い物は自らすすんでするので、冷蔵庫にはいつも食材がたっぷり入っている。ただ、それ以外の家事はほとんどしたがらない。掃除も洗濯もゴミ出しも、トイレットペーパーの買い出しも、たいてい菜生がする。

「菜生さんが几帳面すぎるんですよ。いっつも部屋にこもってばっかりいるし。部屋の中、本だらけだし」

 美也子がとつぜん、斜め向かいの航に顔を向けた。

「それに、夏になったらベランダで野菜とか作りだすんですよ。トマトとか、キュウリとか、ナスとか。休みの日はずっと野菜にかかりっきりって……二十代の女子としてどうかと思いません?」

 菜生は笑顔を凍らせながら、それ以上しゃべるなと無言のメッセージを送った。けれど、美也子には通じなかったようだ。

「あっでも先週の金曜は……」
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