三日月の下、君に恋した
「美也ちゃん」

 菜生がさえぎるのと、航が席を立つのが同時だった。


「お先に」


 静かな声でそう言って、彼はトレイを持ってさっさとテーブルを離れていった。


「早瀬さんて、無口な人なんだねえ」

 航がいなくなったあとで、美也子ががっかりしたように言った。太一がすぐに「そうでもないけど」と言っている。

「俺、今度あの人と一緒に仕事することになったんだけど、親切だよ。いろいろ教えてくれるし、教え方もうまいし。すごい勉強になるよ」

 菜生は食べかけのランチを皿に残したまま、立ち上がった。

「ごめん。私もちょっと用事があるから、先にもどるね」

 美也子と太一に声をかけて、とまどったようすの二人を残してテーブルを離れた。


 混雑するフロアを早足で突っ切り、トレイをもどして食堂を出た。人をよけながら廊下を走って、エレベーターの前で長身の男性を見つける。


「あの、早瀬さん」


 彼の顔がこちらを向いた。目が合ったとたん心臓が駆け出す。
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