三日月の下、君に恋した
5.記憶は揺れる
忘れるわけないだろ。
午後の仕事を片付けている間じゅう、航はずっとイライラしていた。
土曜の朝、菜生とはちゃんと話をするつもりだった。なのに、彼女は航にひとこともなくホテルの部屋を出ていった。逃げるように。
眠っている彼女をベッドに置き去りにしてシャワーを浴びたのが間違いだったと、ずっと、ひどい後悔に悩まされていたのだ。
ベッドに入る前から──エレベーターの中で無防備な彼女の姿を見たときから、繊細で臆病で正直なことはわかっていた。経験が少なくて、きっとこんな大胆な真似をするのも初めてにちがいないとわかっていた。
それなのに、止められなかった。
自分が彼女にしたことを思うと、今でもぞっとする。
欲望にまかせて彼女の体を貪り、何度も奪った。何時間も、声がかれるまでなかせて。あんなふうにするべきじゃなかった。
そもそも最初から、すべて失敗だった。
食事に誘うなんて、いったいどういうつもりだ?
愚かな行動を許した自分を、問い詰めたくなる。