三日月の下、君に恋した
 ずいぶん昔、あれと同じものを、どこかで見たような気がする。

 かなり使いこまれていて変色していたけれど、もとはきれいな色をしていたはずだ。

 たぶん地の色はマリンブルーで、クリーム色の小鳥とローズピンクの花の絵柄がちりばめてある。ウィリアム・モリスの壁紙みたいなクラシックなデザインで、色のバランスがとてもいい。



「色のバランスがいいし、デザインもこっちのほうがいい」



 突然、何か思い出しかけた。

 ぼんやりした、かすかな記憶が揺れている。



「お父さんはどっちがいいと思う?」

「オレンジ色の花柄のほうが明るくていいと思うな。そっちのは、少し大人っぽすぎないか」



 そうだ。三人でハンカチを──誰かにプレゼントするハンカチを選んでいた。

 あれはいつのことだ?



「そうねえ。でもやっぱり航の選んだほうにするわ」

「なんだなんだ。俺の意見は無視か」

「そりゃそうよ。私たちより航のほうがセンスがいいんだもの」



 おやじがいるということは日曜だろうか。
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