三日月の下、君に恋した
 ほんとうはハンカチなんかどうでもよくて、すごく腹が減ってて。

 そうそう、試合のあとだった。ということは高1か高2だ。

 疲れて腹を空かせて家に帰ってきたら、二人が新品のハンカチをひろげて思案していたのだ。



「誕生日のプレゼントなのよ。私の小さなお友達の」



 小さなお友達?



「いいんですか、早瀬さん」

 とつぜん声をかけられて、航はぎくっとした。


 隣の席の友野太一が、心配そうにこちらを覗きこんでいる。


「もう三時過ぎてますよ」

 何のことかわからず、航はぽかんとした。

「三時から、開発部の企画会議に出るって言ってませんでした?」

 しまった。すっかり忘れていた。


「何かトラブルでもあったんですか?」

 びっくりしたようすで、太一が心配そうに聞いてくる。

「いや、ちがう。何でもない」

 資料を抱えて席を立ち、部屋を出た。

 トラブルにはちがいない。それもかなり重大な。

 にも関わらず、もう一度彼女に会いたいと思う気持ちを抑える自信がなかった。
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