三日月の下、君に恋した
 会議室にはもう菜生が来ていて、落ち着かないようすで航を待っていた。

 彼女の顔がこちらを向き、航を見た。


 魔物がますます勢力を増した。


 今日の菜生は、長い髪をハーフアップにしていた。

 やわらかそうな髪のひと束が、白いうなじにそって胸の前に垂れている。ちょっと髪型を変えるだけで、女はなぜこんなに雰囲気が変わるんだろう。


 じっと見つめたせいか、彼女が視線をそらした。そして「おつかれさまです」と、よそよそしい挨拶をした。表情はぎこちなく、居心地が悪そうに見える。

 はやくすませてしまおう、と航は思った。


「昨日言ってたハンカチって、これ?」

 航はポケットから例のハンカチを取り出した。

「ホテルの部屋の前で拾ったのを、すっかり忘れてた」

 菜生の表情がとたんに変わった。輝くように明るくなり、航の手の中にあるハンカチを見つめる目に、うれしさがあふれていた。


「ありがとう」


 子供のように無邪気な声でそう言うと、彼女はためらいなく近づいてきた。
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