三日月の下、君に恋した
 ふれあう唇から、彼の心が伝わってくる。どうしても言葉にできない何かがあって、彼の唇がそれを懸命に伝えてる。

 何かはわからないけど、菜生はそれを受けとめようと思った。北原まなみがしてくれたように。精一杯心を開いて、彼が伝えるものを受けとめよう。

 キスは永遠と思えるほど長く続いた。


 彼が最後にもう一度、唇を軽くおしあてて、ため息をもらすように菜生から離れた。鼻がふれあうほど近くに彼の顔があって、その目はまだ離れたくないと言っていた。

 見つめ合ったまま、菜生は何も言うことができなかった。ずっとキスしていたいという気持ちがあまりにも強すぎて、その気持ちをどう扱っていいかわからず呆然としていた。

 彼は踏ん切りをつけたように菜生の手を放し、身を引いた。そして苦痛に満ちた表情で菜生に背を向けると、会議室を出ていった。
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