三日月の下、君に恋した
月曜の朝、菜生と美也子が出社すると、社内はいつになくざわついていた。
「なんか、新しい専務が来てるみたいですよ」
美也子がさっそくどこからか聞きつけてきて、そわそわしている。
「新しい専務って……」
「社長の甥で、次期社長って噂の」
菜生はふうん、と曖昧にうなずいた。
「社長、入院してたらしいですよ」
「えっ、そうなの?」
言われてみれば、ここしばらく姿を見ていない。もともとあまり表に出てこない人ではあったけれど、月初めの全社朝礼でさえ、この数か月欠席している。
「近々交代ってことになるんですかねー」
ひとごとのように、美也子が言った。
菜生にしても、身近な問題とは感じていなかった。代表者が誰になろうと、今までどおり仕事をしていくことに変わりはない。