三日月の下、君に恋した
9.どういうこと?
出社するとすぐ、部長から専務室に行くように言われた。
暗い気持ちでエレベーターに乗り、九階で降りた。重役室に呼ばれるなんて、入社以来初めてのことだ。
さっと身支度を調えて、ドアの前に立つ。
いくらなんでも、クビってことはないでしょ?
ドアをノックすると、「どうぞ」と中から慇懃な声がする。菜生はゆっくり深呼吸をして、ドアを開けた。
部屋の真正面に、公園で会ったロングコートの男が立っていた。
やはり、この人が新しい専務なのだとあらためて思い知らされ、菜生は緊張してふるえだしそうな足を懸命に踏ん張った。
「おはようございます」
菜生のか細い声が、四方に吸いこまれるように響いた。部屋の中は、異様なほど鋭敏な空気に満ちていた。
白い壁紙と薄いブルーのカーペットはまっさらで、家具やOA機器はすべて最新のモデルが揃えてあった。何もかも神経質なくらいきれいだった。
「呼び出してすまなかったね」