三日月の下、君に恋した
10.会議は歪む
重役にケンカ売ってどうする。
航が遅れて会議室に入ると、正面の席に座っていた梶専務が異様に光る目で睨んできた。遅刻を詫びて席に着く。
梶専務の隣に座っている部長が、さりげなく意味ありげな視線を送ってくる。わざわざ航の携帯にかけてきて今すぐ会議に出ろと命令するくらいだから、よほど困っていたのだろう。
ほんとうは、会議なんかすっぽかしたかった。
彼女の話を最後まで聞いて、彼女が泣きやむまで、そばにいるつもりだった──携帯さえ鳴らなければ。
通話を終えて振り向いたとき、菜生はむりやり笑顔を浮かべて大丈夫だと言った。結局、航は菜生の話を聞けないまま、彼女を置いて会議室に向かうしかなかった。
会議は既に始まっていた。
梶専務の手前、全員それなりにやる気のある顔をつくろってはいるが、内心は複雑なところだろう。
ハトリの創業六十周年を機に行う、プロモーションについての会議だった。
これまでのハトリは、どちらかというと広告宣伝に関しては消極的な会社だったのだが、どうやら梶専務がマーケティングに強い関心を示しているらしく、今後はマスコミ4媒体にも積極的に広告を出していく方針らしい。