三日月の下、君に恋した
「そこがいいんじゃないか。彼のような、いかにも文具に興味のなさそうな男がわが社の製品について語る……ギャップだよ、必要なのは」

「はあ。しかし、その……彼は何かと問題も多いようですし、マスコミを毛嫌いしているというのも事実のようです。はたして引き受けてくれるでしょうか」

「それはきみたち次第だ」

 冷笑を浮かべて居丈高に胸をそらすと、専務はとつぜん強い視線で航をとらえた。


「この仕事は、ぜひ早瀬君に頼みたいんだが。どうだろう」


 全員の視線が航に向く。

「葛城リョウですか」

 航は心の中で深いため息をついた。絶対に連絡を取りたくない相手だった。


「ぜひ彼でいきたい。頼むよ。きみなら上手く交渉できるはずだ」

 よく言う。明らかにさっきの腹いせだろうが。

 専務の白々しい激励の言葉を聞きながら、航はこみ上げてくる怒りを抑えていた。
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