三日月の下、君に恋した
「俺、営業なんてやったことないけど」

「えっ?」

 菜生は驚いて彼を見た。

「だって、前の会社で契約率トップだったって……」

 またしても、失言に気づいて菜生は青ざめた。目の前で彼が苦笑いを浮かべている。

「ああ、それ。どこからそんな噂が流れたんだか」

「ちがうんですか?」

「ちがう」

「R社にいたっていうのも?」

「まさか」

「破格の条件で引き抜かれたっていうのは……」

「誰だよそれ。ちゃんと入社試験受けたって」

 彼はもうどうでもいいという感じで、ため息混じりに言った。

「なんだってこう、次から次へとワケのわからん噂が立つんだろ」

「……そうですね」
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